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HARMAN Owners' Clubハーマンオーナーズクラブ

いい音、ラグジュライフ

好きな音楽をより良い音で聴くことで、日常がラグジュアリーに。
そんな『ラグジュライフ』のヒントや、音楽にこだわりをもった方々、音のプロの声をお届けします。

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演奏の状況が目の前に甦るような没入感。
いい音にはそんな力がある辻 多久也(ハーマンインターナショナル)

Mark Levinson(マークレビンソン)のプロダクトオーナーである辻多久也さん。国内音響メーカーで「音」に関するキャリアをスタートさせて、車載及び家電向けOEMスピーカーの設計を担当しキャリアを積みました。ハーマンインターナショナルに転職後は、主にカーオーディオの開発・営業に携わります。
そんな辻さんは、ハーマンインターナショナル日本支社に数人しか存在しないサウンド・エバンジェリストを務めた一人。音を生業とする辻さんは、音とともにどういったラグジュライフを送ってきたのか。ご自身の音楽人生を振り返りながら、ハーマンブランド、そしてマークレビンソンが目指すラグジュアリーな音について語っていただきました。

いい音でクラシックを聴くと、楽器演奏の場面が頭の中に再現される

子どもの頃からオーディオは好きでした。家にJBLのオーディオがあったんです。当時流行っていた沢田研二の「勝手にしやがれ」を聴いていた記憶がありますね。確か、小学校3年生の頃でした。

本格的にハマったのは中学生になってからです。親が当時使っていたJBLのスピーカーを自分のものにして、小遣いの範囲でアンプやケーブルを変えたりしていました。この頃になると日本の歌謡曲はほとんど聴いてなかったですね。MTVなどでヒットしていた洋楽やジャズなどは一通り聴きましたが、最も熱中したのはクラシックでした。いい音で聴くと、バイオリンやビオラ、ピアノといった楽器の音がしっかりと再現され、演奏している映像が頭に浮かびます。それが好きだったんです。

特に好きだったのが、ドヴォルザークの交響曲第9番の「新世界より」です。イシュトヴァン・ケルテスがロンドン交響楽団を指揮したレコードを聴いて感動したのを覚えています。「新世界より」は小学校や中学校の音楽の授業で聴きますよね。でも、音楽室のスピーカーの音質は環境を含めそんなに良くはありません。それをJBLのスピーカーで聴いたときは、雄大さだったり、その場の雰囲気だったり、そういった空気感を味わえました。今でもこの感動を追い求め、お客さまに提供することが究極の目標だと感じています。

社会人になってからは、音楽を聴くことも仕事のひとつになりました。そのこともあり、プライベートではあまり聴かなくなりましたね。特に子どもが生まれてからは、良いスピーカーにいたずらされるのが怖くて(笑)。ただ、今はみんな巣立ったので、もう一回、オーディオを組み直そうかと思っています。家で音楽を愉しむとしたら、深夜。部屋の灯りを薄暗くして。クラシックは暗がりが似合うんですよ。コンサートホールも客席は明るくないでしょう。

エンジニア冥利に尽きるJBLやマークレビンソンのオーディオシステム設計

前職には長年勤めていたので、ある程度のキャリアもあるし部下もいました。転職すれば、エンジニアとしてはランクが下がってのスタートです。それでも、さまざまな有名オーディオブランドを有するハーマンインターナショナルなら、いままで知らなかった新しい経験ができるかもしれない。その魅力のほうが遙かに大きかったですね。

もうひとつ、背中を押したのは、ブランドへの憧れです。オーディオに携わる人間にとって、JBLやマークレビンソンのオーディオシステムを設計するなんて夢のような話です。そのブランドのバッジを付けることができるなんて、エンジニア冥利に尽きます。もちろん、その分求められるハードルも高いはずです。その高いハードルを超えることで成長できるのではないかと考え、当たって砕けろという思いで、新しい一歩を踏み出しました。

実際、入社してカリフォルニア本社で開発現場を見学したり、トレーニングを受けたりすると、いままで井の中の蛙だったと思い知らされました。JBLの経験値と技術力は圧倒的で、社員の知識レベルが全然違いました。特に、設計者は技術的な知識が豊富なのはもちろんのこと、音を聞く事へのこだわりがとても強いのです。

そんなハーマンのなかでも、私が最初についた上司は音へのこだわりと耳の良さが飛び抜けていました。彼は1974年入社だったので、ほぼマークレビンソンの歴史と共に歩んできたような人でした。

彼と一緒に取り組んだのが、カーオーディオです。カーオーディオの開発と車へのセッティングはいくつかの段階があります。まずは、自動車メーカーのチーフエンジニアと音のコンセプトをすり合わせます。その後、試作車が完成するたびに、開発したカーオーディオを実際に搭載してチューニングを行います。それを3カ月タームくらいで次々に完成する試作車で何度も繰り返すのです。

あるとき上司が、「なんだか前回と音の感じが違う」と指摘しました。普通、機器類で計測して周波数などを細かく確認して前回との違いを見極めるのですが、彼は聞いた瞬間に違う部分を言い当ててしまったのです。いったい、どんな耳と記憶力をしているんだと舌を巻きましたね。それ以来、その上司の意見を絶対的に信用するようになりました。

膨大な知識量があってこそ成立する
「エバンジェリスト」という肩書き

ハーマンのエバンジェリストとは、一言でいえば「音の伝道師」といったところです。ちなみに私は二代目だったのですが、すでにその職を離れています。ミッションは、イベントなどでハーマンブランド製品の良さをお客様にお伝えすることです。それは製品担当者の仕事だと思うかもしれませんが、彼らはどうしても技術的な話に偏りがちになります。もちろん、オーディオマニアのお客様ならそれでもいいのですが、素材やメカニズムに詳しくない方も少なくありません。

そもそも、我々は製品を出荷していますが、売っているのは「音」だと思っています。エバンジェリストは、その音が正しく再生されていることをお伝えするのが役割です。お客様には、実際に音を聴いてもらって、その音の正しい聴こえ方を説明します。もう少し分かりやすくいえば、ミュージシャンが伝えたい音が、オーディオシステムでいかに正しく再現されているかを訴求します。

そのためエバンジェリストには、ブランドの歴史や製品の技術的アプローチはもちろんのこと、楽器や音楽ジャンルの勉強も必要です。それら全てを包括した知識とそれを言語化して分かりやすく説明するスキルが求められます。そういったこともあり、まだまだ数は多くないので今は若手エバンジェリストの育成中です。

お客様はブランドの価値観や音質の豊かさ、
クオリティに対価を支払ってくれる

今は、マークレビンソンのプロダクトオーナーとして、LEXUSに搭載するサウンドシステムを担当しています。マークレビンソンは1972年に、元々は、ベーシスト・音楽家・レコーディングエンジニアであったマーク・レビンソン氏が起ち上げたブランドです。自分で聴くオーディオに満足できず、レコーディングスタジオで使っているパーツを使ってアンプを製造したそうです。

量産第一号は、「LNP-2」というローノイズ・プリアンプです。レコーディングスタジオで使っている部品を集めているから、とにかく高いんです。当時、日本では63万円でした。これは、トヨタの乗用車、カローラとほぼ同じ値段でした。こんなに高価なアンプをどのメーカーも販売していません。この瞬間に、ハイエンドオーディオというカテゴリーが誕生したとも言われています。

マークは、LNP-2から聴こえるいい音によって、ラグジュアリーな人生や未来、いわゆるラグジュライフを与えたいと考えていました。決して製品を売りたかったわけではないのです。この考えは今でもハーマンの根幹を成しており、その自負を持っています。そして、我々の音を愛してくれるお客様も、製品そのものというよりも、ブランドの価値観や音質の豊かさ、クオリティに対価を支払ってくれています。

アーティストやレコーディングエンジニアの
思いを伝え、ライブで聴いた感動を再現する

マークレビンソンが追及するいい音、それは、原音を忠実に再現することにほかなりません。もちろん、音符をきちんとなぞって演奏すれば、楽譜通りの忠実な演奏はできます。これは時に感情が見えない演奏でもあり、ある意味再現も簡単です。難しいのは、 アーティストの伝えたいメッセージが見える演奏を「忠実に」再現することです。再現されれば、音楽のニュアンスはもちろん、彼らが演奏している位置までわかり、まるでそこに存在するかのような情景が広がります。まさに、CDに込められたアーティストやレコーディングエンジニアの思いをそのまま伝え、ライブの 感動を再現することができるのです。

そのため、マークレビンソンでは「ピュリティー(純粋)」「パワフル(力強さ)」「プレシジョン(精密)」という3つにこだわった音作りをしています。例えば、アンプやスピーカーに搭載される回路一つ取っても、無駄な部品や経路はひとつもありません。正しい部品を最短経路で組み上げた純粋な回路を使えば、入力された電子信号をロスなく出力できるという考えです。それにより、濁りのない情報豊かな音が再現されているのです。

LEXUSのオーディオシステムも思想は同じです。クリーンでスムーズな音は、どのオーディオメーカーでも作ることができるでしょう。しかし、聴いていて鳥肌が立つような、例えば、実際の音楽コンサートの雰囲気を忠実に再現する、音がキレイという表現には収まらない、音を体感できるのが、私たちのオーディオシステムです。

カーオーディオにそこまでの音が必要なのか。私は、非常に大事だと思っています。人は、自然ではない音のバランスで音楽を聴くと違和感を感じます。その違和感はストレスとなって、運転の疲労を増幅させます。しかし、良いオーディオなら、何時間聴いていても疲れません。特に、LEXUSのように車内の静粛性が高い車だと顕著に表れるでしょう。臨場感たっぷりのいい音に包まれながら、美しい風景を駆け抜けるドライブ。これもひとつのラグジュライフだと思いませんか。

決して100点満点の仕事はできない。
エンドレスだから楽しい

アーティストは、曲に何かしらのメッセージを込めてレコーディングしています。それをどう受け取るかは聴いた側の解釈に委ねられます。私たちの使命は、アーティストが音に残したメッセージを忠実に再現することです。忠実に再現できなければ、聞く側の解釈にも影響してしまいます。そんな忠実に再現された音を聴いたお客様が、ストレートに感動してくれる。仕事をやっていて最も嬉しい瞬間ですね。

とはいえ、それは100点ではありません。100点だと思うと、次の製品は生まれないからです。常に見直して、何かしら足りない部分を探し、もっとこうすれば良かったと考えます。それがよりよいハーマンブランドの製品につながるはずです。この仕事にゴールはありません。多分、エンドレスですね。たからこそ、大変だけれども楽しく仕事ができているのだと思います。まさに、いい音がもたらす私のラグジュライフです。